SES企業で働くエンジニアの多くが、案件選択の自由度の低さや評価制度の不透明さに悩みを抱えています。また、市場価値に見合った報酬を得られず、キャリアパスが不明確という課題も存在します。
そこで注目を集めているのが、エンジニアの主体性と市場価値を重視する「新SES」という新しい働き方です。
この記事では、従来型のSESとの違いや特徴、給与システム、メリット・デメリットを詳しく解説します。
新SESとは?
ITエンジニアの働き方を大きく変える新SESは、従来型のSES企業における課題を解決する新しいビジネスモデルです。単価評価制度を導入し、エンジニアの市場価値を重視した評価システムを取り入れることで、より公平で透明性の高い環境を実現しています。
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従来型のSESと新SESとの違いは?
従来型のSESでは、受託企業からの案件単価に対して一定の利益率を設定し、残りを給与として支払う仕組みが一般的でした。この仕組みでは、案件単価が非公開であることが多く、エンジニアは自身の市場価値を把握することが困難な状況にありました。
一方、新SESでは案件単価を明確に開示し、その単価に対して定められた還元率で給与が決定されます。例えば、月額単価が100万円の案件で還元率が70%の場合、70万円が給与として支払われる仕組みです。
また、従来型のSESでは営業担当者が案件を決定することが多く、エンジニアの希望が反映されにくい環境でした。新SESでは、エンジニア自身が案件を選択できる権利を持ち、自身のスキルや経験を活かせる案件を主体的に選ぶことが可能です。
さらに、従来型のSESでは評価制度が不透明で、給与の上昇基準が明確でないケースが多く見られました。新SESは単価評価制度を導入することで、エンジニアのスキルや実績に応じた市場価値を反映した評価を実現しています。
技術力の向上にも大きな違いがあります。従来型のSESでは、収益を優先するあまり、エンジニアの技術力向上に対する投資が不足していることがありました。新SESでは、エンジニアの市場価値向上が企業の成長につながるという考えのもと、技術研修や資格取得支援などの教育制度が充実しています。
このように、新SESは従来型のSESにおける課題を解決し、エンジニアがより主体的にキャリアを構築できる環境を提供しています。
新SESの特徴とは?
新SESは、エンジニアの希望や市場価値を尊重した働き方を実現する特徴的な仕組みを備えています。従来のSESで見られた不透明な部分を解消し、エンジニアが自身のキャリアを主体的に構築できる環境を整えています。
案件情報100%開示の仕組み
案件情報の完全開示は、新SESの根幹を成す特徴です。案件の単価、業務内容、必要スキル、就業環境などの情報が全て開示され、エンジニアは案件の詳細を把握した上で選択することが可能です。
開示される情報には、プロジェクトの規模や期間、使用技術、チーム構成、開発プロセスなども含まれます。また、案件を依頼する企業の業界動向や技術戦略なども共有され、中長期的なキャリア形成を見据えた判断材料となります。
エンジニア主導の案件選択システム
エンジニアが自身の意思で案件を選択できる権利が保障されています。スキルセットや経験、キャリアプランに合わせて案件を選び、主体的にキャリアを構築することが可能です。
営業担当者は案件の紹介役に徹し、最終的な判断はエンジニア自身が行います。また、案件選択の過程で必要な技術面での相談やキャリアカウンセリングなどのサポート体制も整備されています。
スキル評価を重視した報酬体系
市場価値に基づく単価評価制度により、技術力や実績が適切に評価され報酬に反映されます。評価基準は明確で、技術スキル、プロジェクトマネジメント能力、コミュニケーション能力などが総合的に判断されます。
四半期ごとの評価見直しにより、スキル向上や実績に応じて報酬が上昇する仕組みが整備されています。また、資格取得や技術研修の受講実績なども評価対象となり、自己研鑽への意欲を高める要因となっています。
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フレキシブルな働き方の実現
リモートワークやフレックスタイム制度の導入により、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方が可能です。ワークライフバランスを重視し、個々の生活スタイルに合わせた勤務形態を選択できます。
プロジェクトの状況や個人の希望に応じて、常駐型、リモート型、ハイブリッド型など多様な勤務形態から選択することが可能です。また、副業や複業の容認など、エンジニアの多様なキャリア形成を支援する制度も整備されています。
新SESの給与システムはどう変わる?
新SESの給与システムは、案件単価と連動した透明性の高い制度へと進化しています。エンジニアの市場価値や貢献度が明確に反映され、収入の予測が立てやすい仕組みとなっています。各制度の詳細を見ていきましょう。
単価連動型の給与システム
単価連動型の給与システムでは、案件の契約単価が基準となり給与が決定されます。例えば、月額単価100万円の案件であれば、その単価に還元率を掛けた金額が給与として支給されます。
このシステムの特徴は、案件単価の上昇が直接給与に反映される点にあります。エンジニアの技術力向上や実績の蓄積により、より高単価の案件を受注することで収入増加につながります。また、案件開始前に収入が確定するため、将来の収入計画が立てやすくなっています。
還元率の仕組みと計算方法
還元率は、案件単価に対する給与の支給割合を示します。一般的な新SES企業では、65%から80%の還元率が設定されています。この還元率は、エンジニアの経験年数やスキルレベル、実績などにより変動します。
計算例として、月額単価100万円の案件で還元率70%の場合、70万円が月額給与として支給されます。また、高単価案件や長期継続案件では、還元率が段階的に上昇する仕組みを採用している企業も増えています。
昇給・賞与の新しい評価基準
従来の年功序列や一律評価から脱却し、市場価値や成果に基づく評価制度が導入されています。四半期ごとの評価面談では、技術力の向上度、プロジェクトへの貢献度、顧客満足度などが総合的に判断されます。
評価基準には、案件の難易度や規模、技術的チャレンジの度合いなども含まれます。また、新規技術の習得や資格取得による市場価値の向上も、昇給要素として考慮されます。賞与については、案件の成果や会社への貢献度に応じて、還元率に上乗せされる形で支給される仕組みが一般的です。
さらに、プロジェクトリーダーやテクニカルリード等の役割を担うことで、基本還元率に役割給が追加される制度も整備されています。これにより、技術力とマネジメント能力の両面でのキャリアアップが、収入増加につながる仕組みとなっています。
新SESで働くメリットとは?
新SESは、エンジニアのキャリア形成と待遇面での満足度を両立する新しい働き方を提供しています。従来のSESでは実現が難しかった自由度の高いキャリア設計や、実力に応じた評価を受けることが可能です。
キャリアプランを自由に設計可能
新SESでは、エンジニア自身が描くキャリアプランに沿って案件を選択することが可能です。専門性を高めたい技術領域や、挑戦したい業界分野など、個人の目標に合わせた案件選択により、計画的なキャリア形成を実現できます。
また、技術領域の専門性を追求するテクニカルパスと、マネジメント能力を磨くマネジメントパスの選択が可能です。両パスの行き来も自由であり、その時々の状況や目標に応じて柔軟にキャリアの方向性を変更することができます。
多様な案件で経験を積める
新SESでは、スタートアップから大手企業まで、幅広い規模の案件から選択することが可能です。また、要件定義から運用保守まで、システム開発の各フェーズに携わる機会があり、総合的な技術力を養うことができます。
最新技術を活用したプロジェクトや、社会的インパクトの大きな案件など、技術者として価値ある経験を積む機会が豊富に用意されています。異なる業界の案件を経験することで、業務知識の幅も広がります。
高単価案件へのステップアップ
技術力の向上や実績の蓄積に応じて、より高単価の案件にステップアップすることが可能です。特に、先進的な技術領域や専門性の高い案件では、市場価値に見合った高い単価が設定されています。
また、プロジェクトマネジメントやアーキテクチャ設計などの上流工程を担当することで、さらなる単価アップが見込めます。複数の案件を経験することで、市場価値の向上と収入増加を段階的に実現できます。
技術力が正当に評価される
新SESでは、技術力や実績が評価基準の中心となります。保有する技術スキル、プロジェクトでの成果、顧客からの評価などが総合的に判断され、市場価値に応じた待遇が保証されます。
定期的なスキル評価により、技術力の向上が給与に反映される仕組みが整備されています。また、新技術への挑戦や技術記事の執筆、社内勉強会での知見共有なども評価対象となります。
福利厚生と安定性の両立
新SESは、フリーランスとは異なり、雇用保険や社会保険などの福利厚生が整備されています。安定した雇用環境のもと、キャリアアップに専念することが可能です。
教育研修制度や資格取得支援など、エンジニアの成長をサポートする制度も充実しています。また、案件がない期間も基本給が保証され、安定した収入を確保できる点も大きな特徴です。
新SESのデメリットは?
新SESには多くの利点がある一方で、従来型のSESとは異なる課題やリスクも存在します。これらの問題点を正しく理解し、適切に対処することが重要です。
待機リスクと収入変動の実態
新SESでは案件の切り替え時に待機が発生する可能性があります。特に、高単価案件や特殊なスキルを必要とする案件を選択する場合、案件の開始時期が遅れることがあります。
待機時の収入保証制度は企業により異なります。基本給のみの支給となる企業や、前案件の単価の一定割合が保証される企業など、制度は様々です。また、待機期間が長期化した場合、収入が大きく減少する可能性もあります。
実際の事例として、特定の技術スタックにこだわりすぎて案件が見つからず、3か月以上の待機を経験したエンジニアもいます。このような収入変動リスクに備え、一定額の貯蓄を確保しておくことが推奨されます。
案件選択の責任と難しさ
案件選択の自由度が高い反面、選択の責任も伴います。技術力とのミスマッチや、プロジェクト環境との不適合など、選択を誤ると厳しい状況に直面する可能性があります。
案件情報だけでは把握できない現場の雰囲気や、チームの開発文化との相性など、実際に参画してみないと分からない要素も多く存在します。また、長期的なキャリアプランを見据えた案件選択には、市場動向や技術トレンドの理解も必要です。
特に経験の浅いエンジニアにとって、適切な案件を選択することは容易ではありません。技術レベルや経験値に見合った案件を見極める目利き力が必要となります。
スキル不足での苦労と対策
新SESでは、技術力が収入に直結するため、スキル不足は深刻な問題となります。特に、市場価値の高い技術スキルを持たないエンジニアは、高単価案件への参画が困難です。
市場で求められる技術スキルは常に変化しており、継続的な学習と実践が必要です。しかし、案件に従事しながら新しい技術を学ぶ時間を確保することは容易ではありません。
また、特定の技術に特化しすぎると、その技術の需要が減少した際に案件を獲得できなくなるリスクもあります。このため、コア技術の深掘りと、関連技術の幅広い習得のバランスを取ることが重要です。
そのため、案件参画前の技術研修や、空き時間を活用した自己学習など、計画的なスキルアップが欠かせません。また、技術コミュニティへの参加や社内勉強会での知見共有など、様々な学習機会を活用することが推奨されます。
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新SESの今後の展望は?業界の変化を予測
IT業界における人材不足が深刻化する中、新SESは従来のSES業界に大きな変革をもたらしています。エンジニアの働き方や待遇に関する意識変化により、業界全体のビジネスモデルが転換期を迎えています。
エンジニアの立場がさらに向上
IT人材の需要増加に伴い、エンジニアの市場価値は今後も上昇が見込まれます。特に、AI開発やクラウドインフラ、セキュリティなどの先端技術領域では、人材の獲得競争が激化しています。
この状況を背景に、エンジニアの交渉力は一層強まり、単価や待遇面での条件交渉が有利になります。実際に、新SESでは案件単価の上昇傾向が続いており、エンジニアへの還元率も改善傾向にあります。
また、働き方の柔軟性も向上し、完全リモートワークやワーケーション制度の導入など、エンジニアの希望に沿った勤務形態が標準化されつつあります。複数案件の並行従事や副業の容認など、多様な働き方を認める企業も増加しています。
新SES企業の増加と淘汰
従来型のSES企業から新SESへの転換を図る企業が増加しています。一方で、エンジニアファーストの理念を掲げながらも、実態が伴わない企業も出現しており、市場での淘汰が進むことが予想されます。
新SES企業の成功には、高単価案件の安定的な確保と、エンジニアの育成・支援体制の充実が不可欠です。また、技術力の評価基準や還元率の設定など、透明性の高い制度設計も重要な要素となります。
さらに、業界全体での標準化も進んでおり、案件情報の開示基準や評価制度の統一化など、エンジニアにとって比較・選択がしやすい環境が整備されつつあります。これにより、質の高いサービスを提供できる企業のみが生き残る構図が鮮明になっています。
また、大手IT企業やスタートアップ企業との協業モデルも増加傾向にあり、新SESは単なる人材派遣にとどまらない、技術パートナーとしての役割を担うようになっています。このトレンドは今後も継続し、新SESの事業領域はさらに拡大することが見込まれます。
まとめ
新SESは、エンジニアの主体性と市場価値を重視した新しい働き方を提供します。案件情報の完全開示とエンジニア主導の案件選択により、キャリアの自己決定権が確保されます。また、単価連動型の給与システムと明確な評価基準により、技術力が適切に評価され、市場価値に見合った報酬を得ることができます。
一方で、待機リスクや案件選択の責任など、従来型のSESにはない課題も存在します。これらのメリット・デメリットを理解した上で、自身のキャリアプランに合わせて新SESという選択肢を検討することが重要です。IT人材の需要が高まる中、新SESの市場は今後も拡大が見込まれ、エンジニアの立場はさらに向上することが予想されます。