IT業界でのキャリアを考えている方や、業界の動向に関心がある方は、SES企業の存在感が気になるところではないでしょうか。「SES企業ってどのくらいあるの?」「実際に働くとどうなの?」といった疑問を持っている方も多いはずです。

この記事では、IT業界におけるSES企業の割合や実態、そしてエンジニアの働き方について、具体的な数字とともに詳しく解説します。

SES企業がIT業界に占める割合は?

日本のIT業界においてSES企業が占める割合について、具体的な数字を見ていきましょう。

近年の調査結果によると、SES企業はIT業界全体の中で無視できない存在感を示しています。

IT業界全体の企業数とSES企業数の比較

経済産業省が公表している最新の統計データによれば、2023年4月時点で日本のIT企業は43,006社とされています。このうち、SES企業と分類される会社は全体の9割(92.3%)と推定されています。

この数字は、IT業界における人材サービスの重要性を示すものといえるでしょう。

ただし、この割合は地域や業界のセグメントによって異なる点に注意が必要です。

なぜIT業界でSES企業が多いのか?

IT業界におけるSES企業の急増には、さまざまな要因が絡み合っています。技術の進歩や市場の変化に伴い、企業の人材ニーズも大きく変化しています。

ここでは、SES企業が多い背景と主な要因について詳しく見ていきましょう。

IT人材不足と柔軟な人材調達ニーズ

IT業界では慢性的な人材不足が続いています。経済産業省の調査によると、2030年には約79万人のIT人材が不足すると予測されています。この深刻な人材不足を背景に、多くの企業が柔軟な人材調達手段を求めています。

SES企業は、この需要と供給のギャップを埋める重要な役割を果たしています。プロジェクトごとに必要なスキルを持つエンジニアを迅速に調達できるため、企業にとって非常に魅力的な選択肢となっています。

また、技術の進歩が速いIT業界では、特定の専門知識や技術を持つエンジニアが一時的に必要になることも多々あります。SES企業を活用することで、こうした短期的かつ専門的なニーズにも柔軟に対応できるのです。

参入障壁の低さ

SES事業は、他の業種と比べて参入障壁が比較的低いという特徴があります。人材を主な資産とするビジネスモデルのため、大規模な設備投資や特殊な技術が必要ありません。

このため、多くの起業家やIT業界経験者がSES事業に参入しています。小規模なSES企業を立ち上げ、徐々に規模を拡大していくケースも少なくありません。

また、既存のIT企業が事業多角化の一環としてSES事業に参入するケースも増えています。これらの要因が重なり、結果としてSES企業の数が増加しているのです。

大手企業の外部リソース活用戦略

近年、多くの大手企業がコスト削減や業務効率化を目的に、IT部門の一部をアウトソーシングする傾向が強まっています。この流れの中で、SES企業の需要が高まっているのです。

大手企業にとって、SES企業の活用にはいくつかのメリットがあります。まず、固定費の抑制が可能になります。正社員を雇用するよりも、必要な時に必要なだけ人材を調達できるため、コスト管理が容易になります。

また、最新の技術やトレンドに詳しい外部人材を活用することで、自社のIT部門に新しい知見や技術を取り入れやすくなります。こうした大手企業の戦略的な判断も、SES企業の増加に拍車をかけている要因の一つといえるでしょう。

以上のように、IT人材の需給バランス、参入障壁の低さ、そして大手企業の戦略的判断など、さまざまな要因が重なってIT業界でSES企業が増加しているのです。この傾向は今後も続くと予想されますが、一方で質の向上や差別化が課題となっていくでしょう。

SES企業の割合から見るIT業界の課題とは?

IT業界におけるSES企業の増加は、業界全体にさまざまな影響を与えています。その中には、解決すべき重要な課題も含まれています。

ここでは、SES企業の割合が高まることで浮き彫りになったIT業界の問題点について、詳しく見ていきましょう。

技術力向上とキャリア形成の難しさ

SES企業に所属するエンジニアにとって、技術力の向上やキャリア形成が難しいという課題があります。これは、以下のような要因が影響しています。

まず、短期的なプロジェクト単位での派遣が多いため、一つの技術を深く掘り下げて学ぶ機会が限られがちです。派遣先が変わるたびに新しい環境に適応する必要があり、特定の分野での専門性を高めにくい状況があります。

また、派遣先の都合で担当する業務が決まるため、エンジニア自身が望むキャリアパスを追求しづらいという問題もあります。例えば、フロントエンド開発を志望しているエンジニアが、バックエンド開発ばかりの案件に携わることになるケースもあります。

さらに、SES企業側の教育体制が不十分な場合も少なくありません。派遣中心の事業モデルのため、社内での体系的な研修や勉強会の機会が限られている企業も多いのが現状です。

これらの要因により、SES企業に所属するエンジニアが計画的にスキルアップを図り、希望するキャリアを築いていくことが難しくなっています。結果として、IT業界全体の技術力向上にも影響を及ぼす可能性があります。

労働条件や待遇面での課題

SES企業の増加に伴い、エンジニアの労働条件や待遇面での課題も顕在化しています。具体的には以下のような問題が指摘されています。

まず、残業や休日出勤が多いにもかかわらず、適切な報酬が支払われないケースがあります。SES企業と派遣先企業の間で契約された工数以上の労働を求められても、その分の報酬が適切に支払われないという問題です。

次に、スキルや経験に見合った給与水準が保証されにくいという課題があります。SES企業間の競争が激しいため、利益率を確保するために給与を抑える傾向があります。結果として、高いスキルを持つエンジニアでも、期待するような給与水準を得られないケースが少なくありません。

また、福利厚生面での不十分さも指摘されています。正社員と比べて、社会保険や有給休暇、各種手当などの面で不利な条件下に置かれることがあります。

これらの労働条件や待遇面での課題は、エンジニアのモチベーション低下やIT業界全体の人材流出につながる可能性があり、早急な改善が求められています。

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多重下請け構造がもたらす

IT業界における多重下請け構造は、SES企業の増加とともにさらに複雑化しています。この構造がもたらす問題点には以下のようなものがあります。

まず、重層的な下請け構造により、上流から下流へ行くほど利益率が低下する傾向があります。結果として、実際に作業を行うエンジニアの待遇が悪化したり、品質管理が難しくなったりするケースが見られます。

また、情報伝達の正確性が損なわれるリスクも高まります。元請けから下請け、孫請けへと情報が伝わる過程で、重要な詳細が欠落したり誤解が生じたりする可能性があります。これはプロジェクトの遅延やクオリティの低下につながりかねません。

さらに、責任の所在が不明確になりやすいという問題もあります。多重下請け構造の中で、トラブルが発生した際に誰が責任を負うべきかが曖昧になり、問題解決が遅れるケースも少なくありません。

このような多重下請け構造は、IT業界全体の健全な発展を妨げる要因となっています。透明性の高い取引関係の構築や、適切な責任分担の仕組み作りが急務となっています。

以上のように、SES企業の割合増加に伴い、IT業界にはさまざまな課題が浮き彫りになっています。これらの問題に対処し、持続可能な業界発展を実現するためには、企業、エンジニア、そして行政が一体となって取り組む必要があるでしょう。

エンジニアの視点から見たSES企業の実態とは?

SES企業で働くエンジニアの実態は、外部からは見えにくい部分があります。しかし、この働き方には独特の特徴があり、メリットとデメリットが存在します。

ここでは、実際にSES企業で働くエンジニアの視点から、その実態と特徴を詳しく見ていきましょう。

多様な案件経験を積める

SES企業で働くエンジニアの大きな特徴の一つは、多様な案件を経験できる点です。この特徴がキャリア形成にもたらす影響は少なくありません。

まず、さまざまな業界の案件に携わることで、幅広い知識と経験を積むことができます。例えば、金融系のシステム開発から製造業の生産管理システム、さらには医療系の情報管理システムまで、多岐にわたる分野の案件を経験することが可能です。これにより、業界特有の知識やビジネスロジックを学ぶことができ、エンジニアとしての視野が大きく広がります。

また、異なる規模や性質のプロジェクトに参加することで、様々な開発手法やプロジェクト管理手法を学ぶ機会も得られます。大規模なウォーターフォール型開発から、小規模なアジャイル開発まで、多様な開発スタイルを体験できるのです。

さらに、新しい技術や最新のツールに触れる機会も増えます。派遣先の企業によって使用する技術やフレームワークが異なるため、常に新しいものを学び続ける環境に身を置くことができます。

技術スキル習得の機会の限界がある

一方で、SES企業で働くエンジニアにとって、技術スキルの習得には一定の限界があることも事実です。この点は、キャリア形成において重要な課題となっています。

まず、特定の技術を深く掘り下げて学ぶ機会が限られがちです。案件ごとに求められるスキルが異なるため、一つの技術に長期的に取り組むことが難しい場合があります。例えば、ある案件ではJavaを使用しているが、次の案件ではPHPを使うといった具合に、技術のスイッチが頻繁に起こります。これにより、特定の技術での専門性を高めることが困難になる可能性があります。

また、最新の技術トレンドに追いつくことが難しいケースもあります。派遣先の企業が古い技術スタックを使用している場合、最新の技術に触れる機会が限られてしまいます。特に長期案件の場合、この問題が顕著になることがあります。

さらに、SES企業自体が提供する教育研修の機会が限られていることも課題です。多くのSES企業では、エンジニアの教育よりも案件の獲得や人材のマッチングに注力しがちです。そのため、体系的な技術教育やスキルアップのための支援が不足しているケースが少なくありません。

このような環境下では、エンジニア個人の自己研鑽が非常に重要になります。しかし、長時間労働や頻繁な案件変更などにより、自己学習の時間を確保することが難しいというジレンマも存在します。

まとめ

IT業界におけるSES企業の割合は約17%と、無視できない存在感を示しています。その背景には、IT人材不足や企業の柔軟な人材調達ニーズがあります。

一方で、技術力向上の難しさや労働条件の課題など、業界が抱える問題点も浮き彫りになっています。

エンジニアにとってSES企業での勤務は、多様な経験を積める反面、専門性を深めるのが難しいという特徴があります。

IT業界の健全な発展のためには、これらの課題に取り組むとともに、個々のエンジニアが自身のキャリアプランを慎重に検討することが重要です。