SES(システムエンジニアリングサービス)の将来性について不安を感じている方も多いのではないでしょうか。IT市場の急成長やデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴い、SESの役割や需要はどのように変化していくのか気になるところです。本記事では、SESの市場規模やエンジニアの需要動向、SES企業の成長を左右する要素、そしてAI時代におけるSESの役割変化について詳しく解説します。
SESの市場規模はどれくらい?
システムエンジニアリングサービス(SES)の市場規模は、近年急速に拡大しており、IT業界全体の成長とともに注目を集めています。SESは、高度な技術を持つIT人材を企業に派遣するサービスであり、多くの企業がデジタル化やシステム開発を進める中で、その需要は年々高まっています。
以下では、具体的な数字や最新のトレンドを交えながら、SES市場の規模と将来性について詳しく見ていきましょう。
IT市場6兆円超えの実態 (市場規模)
IDC Japanの2024年の国内ITサービス市場予測の調査によると、日本のIT市場は着実に成長を続けており、2023年には6兆4,000億円を超える規模に達しました。2024年以降も同市場は好調を維持し、2028年には8兆1495億円規模になると予測されています。
この成長の背景には、企業のデジタル化推進や、新技術の導入が大きく関わっています。特に注目すべきは、SESを含むIT人材派遣サービスの市場規模です。
矢野経済研究所の2023年度のデジタル人材関連サービス市場(デジタル人材育成・研修サービス、デジタル人材(IT技術者)派遣サービス、デジタル人材紹介サービス3市場の合計)調査によると、前年比8.2%増の1兆2,720億円に達すると見込まれています。この成長率は、IT市場全体の成長率を上回っており、SESの需要が特に高まっていることを示しています。
さらに、SES市場の中でも、特定のスキルセットを持つエンジニアの需要が急増しています。例えば、クラウドコンピューティング、AI、データサイエンス、サイバーセキュリティなどの分野に精通したエンジニアの派遣依頼が増加しています。これらの専門分野におけるSES市場は、年間10%以上の成長率を記録しているケースもあります。
DX需要がSES市場を牽引
デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、SES市場の成長を強力に後押ししています。富士キメラ総研の調査によると、2020年度におけるDXの市場規模は1兆3,821億円で、2030年度には5兆1957億円まで増加する見込みです。この巨大な市場の中で、SESは重要な役割を果たしています。
DXの実現には、高度なIT技術と業務知識を兼ね備えた人材が不可欠です。しかし、多くの企業では社内にそのような人材が不足しているのが現状です。PWCの『日本企業のDX推進実態調査2024』の調査では、日本企業のDX推進を行なっているが、30%が成果が出ていないとして挙げています。
そのため、DXを推進する手段として、SESの活用が急速に広がっています。SESを利用することで、企業は必要な技術スキルを持つエンジニアを柔軟に確保し、DXプロジェクトを迅速に進めることができます。特に、中小企業においてはDXの導入が遅れているため、今後数年間でSESの需要がさらに高まると予想されています。
実際に、DX関連のSES案件数は、2022年から2023年にかけて約40%増加したというデータもあります。この傾向は今後も続くと見られ、SES企業にとっては大きなビジネスチャンスとなっています。
参考:『2022 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編/ベンダー戦略編』まとまる(2022/3/15発表 第22025号)|株式会社富士キメラ総研
参考:『2023 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編/ベンダー戦略編』まとまる(2023/3/17発表 第23032号)|株式会社富士キメラ総研
エンジニアの需要は増加中?
エンジニアの需要は、デジタル化やテクノロジーの進化に伴い、着実に増加しています。特に、IT業界全体の成長と企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進により、エンジニアの重要性はますます高まっています。
IT人材79万人不足の衝撃
経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によると、2030年には最大約79万人のIT人材が不足すると予測されています。この数字は、IT需要の伸び率と労働生産性の上昇率に基づいて試算されたものです。
この深刻な人材不足の背景には、以下のような要因があります。
- 技術の進化スピードが速く、人材育成が追いつかない
- 教育システムが現実の需要に対応できていない
- 労働環境や待遇の改善が必要
特に注目すべきは、従来型IT人材の需要は減少する一方で、高度IT人材や先端IT人材(デジタル人材)の不足が顕著になると予測されていることです。この予測は、AIやクラウド、ビッグデータなどの最新技術に精通し、ビジネス全体を俯瞰できる人材がより求められるようになることを示しています。
スキル別で見る需要の変化
エンジニアの需要は全体的に増加傾向にありますが、特定のスキルセットを持つエンジニアの需要が急増しています。以下に、特に需要が高まっているスキル分野を挙げます。
- クラウドコンピューティング
- AI(人工知能)
- データサイエンス
- サイバーセキュリティ
- IoT(モノのインターネット)
これらの専門分野におけるSES市場は、年間10%以上の成長率を記録しているケースもあります。
また、未経験エンジニアの採用にも注目が集まっています。IT人材採用担当者の約7割が「採用中」または「検討中」と回答しており、経験者採用の難しさから未経験者採用に目を向ける企業が増加しています。
さらに、Webサービス系プロジェクトマネージャーやエンジニア、ネットワークエンジニア、セキュリティエンジニアなどの職種でも需要が高まっています。
以上のように、エンジニアの需要は確実に増加しており、特に先端技術や複合的なスキルを持つ人材の需要が高まっています。
SES企業の将来性を左右する要素
SES企業の将来性は、技術革新や市場の変化に対応するための戦略的な取り組みによって大きく左右されます。
以下では、SES企業の将来性を左右する具体的な要素について詳しく解説します。
教育体制が鍵を握る理由
SES企業にとって、エンジニアのスキル向上を支える教育体制は競争力を高めるための重要な要素です。エンジニアの技術力を向上させることは、企業の成長に直結します。
特に、急速に進化する技術に対応できる人材を育成するためには、体系的な教育プログラムが必要です。
多くのSES企業では、新人研修や社内勉強会、資格取得支援制度などを導入し、エンジニアのスキルアップを支援しています。
これにより、企業は優秀な人材を惹きつけ、定着率を高めることができます。また、エンジニア自身もキャリアの選択肢が広がり、長期的なキャリア形成が可能になります。
多角化戦略で生き残る企業
SES企業が持続的に成長するためには、事業の多角化が欠かせません。
SES事業に加えて、自社の受託開発や自社製品の開発などを行うことで、収益源を多様化し、経営の安定性を高めることができます。
特に、ITサービス市場の変化に対応するためには、柔軟な事業展開が求められます。
多角化戦略を実施することで、エンジニアは多様なプロジェクトに携わる機会を得ることができ、スキルの幅を広げることができます。
これにより、企業はエンジニアのモチベーションを高め、長期的な人材確保につなげることができます。
働き方改革への対応力
労働環境の改善は、SES企業の成長において重要な要素です。エンジニアの働きやすさを追求することで、企業は人材の流出を防ぎ、競争力を維持することができます。
具体的には、適切な報酬体制の確立や、過度の残業を避けるための労働環境の見直しが必要です。
また、リモートワークの導入やフレックスタイム制度の実施など、柔軟な働き方を提供することで、エンジニアのライフワークバランスを向上させることができます。
これにより、企業はエンジニアの満足度を高め、優秀な人材を確保することができます。
競合との競争の過熱
SES業界は、参入障壁が低く、競合が多く存在するため、競争が激化しています。このような環境で生き残るためには、明確な戦略と運営ノウハウが必要です。
市場調査に基づいた適切な単価設定や、優良顧客の獲得、継続的な案件獲得が重要です。
さらに、関連業界との連携を強化し、新たなビジネスチャンスを創出することも求められます。
SES企業は、独自の強みを活かし、差別化を図ることで、競争の激しい市場での地位を確立することができます。
これらの要素を考慮し、SES企業は柔軟な対応と戦略的な経営を行うことで、将来の成長を確実なものにすることができます。エンジニアの育成や労働環境の改善、多角化戦略の実施を通じて、競争の激しい市場での生き残りを図ることが求められます。
SESの将来性はどうなる?
SESは、IT業界における重要なビジネスモデルの一つとして、今後もその役割が進化していくことが期待されています。
ここでは、AI時代におけるSESの役割変化や新しい働き方との融合について詳しく解説します。
AI時代のSESの役割変化
AI(人工知能)の進化は、SESの役割に大きな変化をもたらしています。AI技術の進展により、SESエンジニアはより高度な技術力が求められるようになっています。
例えば、AIを活用したデータ分析や自動化プロジェクトにおいて、SESエンジニアは重要な役割を担っています。
AI技術の導入により、SESエンジニアは従来のシステム開発だけでなく、AIモデルの構築や運用、データの前処理など、専門的なスキルが必要とされる場面が増えています。
このような技術革新に対応するためには、SES企業はエンジニアのスキルアップを支援し、最新技術に対応できる体制を整えることが求められます。
新しい働き方とSESの融合
新しい働き方の普及は、SESの雇用形態にも影響を与えています。リモートワークやフレックスタイム制度の導入により、SESエンジニアはより柔軟な働き方が可能となっています。
これにより、SES企業はエンジニアの働きやすさを向上させ、優秀な人材を確保しやすくなっています。
また、SES企業は、プロジェクトごとに異なる環境で働くエンジニアに対して、適切なサポートを提供することが重要です。
このように、技術革新と働き方の変化に適応することで、SES企業は今後も持続的な成長を遂げることができるでしょう。
まとめ
SESは、IT市場の拡大やDX需要の高まりによって、今後も成長が期待される分野です。エンジニアの人材不足やスキル需要の変化に対応するため、SES企業は教育体制の強化や多角化戦略の実施が求められています。
また、AI技術の進化や新しい働き方の普及により、SESの役割も変化しています。これらの要素を踏まえ、SES企業は柔軟な対応と戦略的な経営を行うことで、将来の成長を確実なものにすることが可能です。