SES企業で働くエンジニアの多くが「使い捨て」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。技術力向上の機会が限られ、待遇改善の見込みも少ない現場で、将来への不安を抱えている方も少なくありません。

実は、SES業界には構造的な問題が存在し、それがエンジニアのキャリア形成を妨げる大きな要因となっています。しかし、この状況を打開し、理想のキャリアを実現する方法は確実に存在します。

本記事では、SES企業特有の課題と、具体的な解決策について詳しく解説します。

SES企業で「使い捨て」を感じる理由とは?

エンジニア

IT業界において、SES企業での労働環境や待遇に関する課題は長年にわたり指摘されています。現場で働くエンジニアたちの声から、その実態と背景にある構造的な問題を詳しく見ていきます。

社員の定着率が極端に低い背景にあるもの

SES業界の平均定着率は2年未満と言われ、特に若手エンジニアの早期退職が目立ちます。この背景には、以下のような深刻な問題が存在します。

現場の声として多く挙がるのは、案件ごとの環境の急激な変化です。3ヶ月から6ヶ月程度で異なる現場に配属されることにより、技術の習得が中途半端になり、人間関係の構築も難しい状況に置かれます。

また、契約終了後の待機期間中の収入減少も大きな不安要因となっています。待機期間中は基本給のみとなり、収入が30%以上減少するケースも珍しくありません。

技術力よりも稼働を重視する評価制度

SES企業の評価制度において最も重視されるのは、契約先での稼働状況です。技術力の向上や資格取得よりも、以下の項目が評価の中心となります。

・契約先からのクレーム有無
・残業時間の多さ
・待機期間の短さ
・契約更新の実績

このような評価基準により、エンジニアは自身の技術力向上に時間を割くことが難しく、結果として市場価値の向上が妨げられます。

福利厚生や待遇改善に消極的な企業体質

多くのSES企業では、福利厚生の充実度が一般的なIT企業と比較して低い水準にとどまっています。具体的な事例として、以下のような状況が確認されます。

・残業代の固定支給制度
・社会保険の最低限の加入
・資格取得支援制度の形骸化
・有給休暇取得の事実上の制限

特に問題なのは、契約先との関係維持を優先するあまり、社員の労働環境改善要求に対して消極的な姿勢を取る点です。

社員の成長やキャリア形成への無関心さ

SES企業における最大の問題点は、社員のキャリア形成に対する支援体制の欠如です。以下のような実態が、エンジニアの成長を阻害しています。

・技術研修の機会が年1回程度
・案件選択の自由度が極めて低い
・スキルマップや育成計画の不在
・上位職への昇進機会の限定

特に入社後3年以内の若手エンジニアにとって、この時期のキャリア形成は極めて重要です。しかし、多くのSES企業では、体系的な育成プログラムが存在せず、個人の努力に依存する状況が続いています。

実際の現場では、最新技術に触れる機会が制限され、レガシーシステムの保守運用案件が中心となるケースが多く見られます。これにより、市場で求められる技術スキルとのギャップが徐々に広がっていく結果となります。

SESエンジニアのキャリアが先細りする5つの危険信号とは?

現場で働くSESエンジニアの多くは、自身のキャリアパスに不安を感じています。ベテランエンジニアとしての経験から、見過ごすことのできない危険信号について解説します。

下流工程の作業ばかりが続く状況

SESエンジニアの業務内容を分析すると、下流工程への偏重が顕著です。具体的には以下のような作業が中心となります。

・既存システムの保守運用作業
・仕様書に基づいたコーディング作業
・テスト工程での確認作業
・ドキュメント作成や更新作業

このような状況が続くと、要件定義や基本設計などの上流工程のスキルが身につかず、キャリアの選択肢が徐々に狭まっていきます。実際の現場では、3年以上同じ作業を続けているエンジニアも少なくありません。

新しい技術に触れる機会が極端に少ない

多くのSESエンジニアが直面する深刻な問題として、最新技術への接点の少なさが挙げられます。以下のような状況が、技術的な成長を妨げています。

・レガシーシステムの保守が主な業務
・新規開発案件への参画機会が限定的
・社内での技術研修の不足
・自己学習時間の確保が困難

特に問題なのは、クラウドやコンテナ技術など、現代のシステム開発に不可欠な技術要素への経験が不足することです。これにより、市場価値の低下が加速していきます。

プロジェクトマネジメントの経験が得られない

キャリアステップにおいて重要なプロジェクトマネジメントのスキルが、SES環境では習得が困難です。その理由として、以下の要因が存在します。

・チームリーダーやPMの役割が契約先社員に限定
・プロジェクト全体の把握が難しい立場
・予算や工数の管理経験が得られない
・チームビルディングの機会不足

結果として、マネジメントスキルの不足により、年齢とともに市場での競争力が低下していく傾向が見られます。

特定の古い言語やツールしか使えない環境

SESエンジニアの技術スタックが限定される背景には、以下のような環境要因があります。

・COBOLやVB等の古い言語での開発が中心
・バージョンアップされていない開発ツール
・オンプレミス環境での作業が大半
・最新のフレームワークやライブラリの使用制限

このような環境に長期間身を置くことで、現代の開発現場で求められる技術要素との乖離が広がっていきます。

社内外の技術コミュニティとの接点がない

技術力向上において重要な要素である、技術コミュニティとの接点が著しく不足しています。その原因として、以下の状況が挙げられます。

・客先常駐による社内交流の機会不足
・勉強会やイベントへの参加制限
・情報共有の場の欠如
・技術的な議論の機会不足

特に深刻なのは、同じ技術領域のエンジニアとの交流機会が限られることにより、技術トレンドやキャリアパスに関する情報収集が困難になる点です。

業界の最新動向や技術トレンドから隔離された環境は、エンジニアとしてのキャリア形成に重大な影響を及ぼします。この状況を打開するには、個人での積極的な行動と計画的なキャリア戦略の策定が不可欠です。

多重下請け構造がもたらす待遇悪化の実態とは?

IT業界における多重下請け構造は、エンジニアの待遇に深刻な影響を及ぼしています。現場で実際に起きている問題と、その背景にある構造的な課題について詳しく解説します。

下請け構造で失われる労働者の権利

多重下請け構造において、エンジニアの権利は階層を下るごとに著しく制限されます。具体的には以下のような権利が失われていきます。

・残業時間の適切な申告と報酬
・休暇取得の自由度
・労働時間の調整
・職場環境の改善要求

実態として、4次請け以降の現場では、残業代が定額制に設定され、実際の労働時間に関係なく一定額しか支払われないケースが散見されます。また、契約更新のタイミングで単価の切り下げ要請を受けることも珍しくありません。

現場では、元請けから3次請け、4次請けと階層が下がるにつれて、1人あたりの月額単価が10万円から15万円ずつ目減りしていく実態が確認されています。結果として、エンジニアの手取り額は市場相場を大きく下回ることになります。

多重下請けによる情報伝達の歪みと影響

情報伝達の経路が複雑化することで、現場では以下のような問題が発生します。

・仕様変更の連絡遅延
・緊急対応時の意思決定の遅れ
・作業指示内容の誤解や認識のズレ
・責任の所在が不明確

特に深刻なのは、プロジェクトの重要な意思決定が必要な場面での対応の遅れです。実際の現場では、1つの決定に対して各層での承認が必要となり、数日から1週間程度の遅延が発生することも珍しくありません。

また、トラブル発生時の対応においても、連絡経路の複雑さが問題解決を遅らせる要因となります。エンジニアが直接、元請けや顧客と協議できない環境により、些細な問題が大きな障害に発展するケースも見られます。

元請け企業との直接取引を阻む構造的問題

元請け企業との直接取引が困難な背景には、以下のような構造的な問題が存在します。

・既存の取引関係による締め出し
・商習慣としての暗黙の了解
・営業力や信用力の不足
・リスク管理体制の不備

IT業界における多重下請け構造は、長年にわたり形成された商習慣として根付いています。新規参入企業が元請けとの直接取引を開始しようとしても、既存の取引関係者からの抵抗にあうことが一般的です。

実態として、元請け企業は以下のような理由で、新規の直接取引に消極的な姿勢を示します。

・既存の協力会社との関係悪化を懸念
・取引先の変更に伴う事務負担の増加
・新規取引先の信用リスク
・プロジェクト管理の複雑化

この状況を打開するには、品質管理体制の整備や、プロジェクトマネジメント能力の向上など、組織としての総合力が求められます。しかし、多くのSES企業では、そこまでの投資や体制整備が困難な状況が続いています。

結果として、エンジニアは多重下請け構造の中で、本来得られるはずの報酬や機会を失い続けることになります。この構造を変革するには、業界全体での取り組みと、個々の企業による積極的な改善努力が不可欠です。

SESエンジニアが目指すべきキャリアプランとは?

現在のIT業界では、キャリアの選択肢が大きく広がっています。SESエンジニアが次のステップに進むための具体的な戦略と、実現可能なキャリアプランについて解説します。

自社開発企業へのキャリアチェンジ戦略

自社開発企業への転職は、多くのSESエンジニアが目指す選択肢の一つです。この実現に向けて、以下のような具体的な準備が必要になります。

自社開発企業が求める技術スキルの習得には、計画的な学習が欠かせません。具体的には、Gitによるバージョン管理、CIツールの活用、クラウドサービスの実践的な知識が重要です。これらのスキルは、業務外の時間を活用して身につけることが可能です。

また、自社開発企業の選定においては、規模や業界だけでなく、開発手法や技術スタックにも注目が必要です。スクラムやアジャイル開発を導入している企業では、チーム開発の経験が重視されます。

実際の転職活動では、技術力を証明できるポートフォリオの準備が重要になります。GitHubでのコード公開や、個人開発したアプリケーションの実績が、面接時の強力なアピールポイントとなります。

フリーランスエンジニアへの転身準備

フリーランスとして独立するためには、技術力に加えて、ビジネス面での準備も重要です。以下のような段階的な準備が、安定した独立への近道となります。

まず、技術面では特定の領域での専門性を確立することが必要です。フロントエンド開発、インフラ構築、セキュリティ対策など、市場ニーズの高い分野での実績作りが重要です。

契約面では、最初から完全なフリーランスではなく、準委任契約での業務委託から始めることが賢明です。この方法により、案件獲得のノウハウを蓄積しながら、徐々に活動範囲を広げることができます。

また、確定申告や保険の手続き、契約書の確認など、ビジネス面での知識も必要不可欠です。税理士への相談や、フリーランス向けのコミュニティへの参加を通じて、これらの知識を補完します。

上流工程を担当できる技術者への成長

上流工程を担当できる技術者になるには、技術力に加えて、以下のようなスキルと経験が必要です。

要件定義や基本設計の経験を積むには、現在の業務に加えて、個人的なプロジェクトでの実践が有効です。オープンソースプロジェクトへの参加や、個人開発を通じて、設計スキルを磨くことができます。

また、コミュニケーション能力の向上も重要です。顧客との要件定義や、チーム内での設計レビューには、技術的な知識を分かりやすく説明する力が求められます。

プロジェクトマネジメントのスキルも、上流工程を担当する上で欠かせません。PMBOKの学習やアジャイル開発の実践を通じて、プロジェクト全体を俯瞰する視点を養います。

専門性を活かした副業・複業を始める

副業や複業は、スキルアップと収入増加の両面でメリットがあります。以下のような具体的な方法で、段階的に始めることができます。

技術ブログの執筆やオンライン講座の提供は、副業の入り口として適しています。専門知識を活かしながら、新たな収入源を確保することができます。

オンラインでの個人レッスンやコードレビューの提供も、時間の融通が利く副業として注目されています。プログラミングスクールの講師や、個人開発者向けのメンターとして活動することで、教える経験も積めます。

また、技術書の執筆や、技術セミナーでの登壇も、専門性を活かした副業となります。これらの活動は、本業でのキャリアにもプラスの影響を与えます。

ただし、副業を始める際は、現在の雇用契約における副業規定の確認が必要不可欠です。就業規則や契約内容を確認し、必要に応じて会社との調整を行います。

このように、SESエンジニアには複数のキャリアパスが存在します。重要なのは、自身の目標に合わせて、計画的に準備を進めることです。市場価値の向上と、理想のキャリア実現に向けて、一歩ずつ着実に前進することをお勧めします。

SESからの転職で失敗しないための準備とは?

IT業界での転職を成功させるには、計画的な準備と戦略的なアプローチが欠かせません。SESエンジニアが転職市場で優位に立つための具体的な方法を解説します。

転職エージェントを活用する

転職エージェントの選定は、転職活動の成否を左右する重要な要素です。業界に精通したエージェントとの連携により、以下のような具体的なメリットが得られます。

IT業界専門のエージェントは、企業の技術スタックや開発環境について詳細な情報を持っています。この情報を基に、現在の経験とスキルで挑戦できる企業を的確に選定できます。

また、大手転職エージェントでは、独自のデータベースを活用して、非公開求人の紹介も可能です。特に、自社開発企業やスタートアップ企業の中には、エージェント経由でのみ採用を行う企業も存在します。

面接対策においても、エージェントのサポートは有効です。企業の面接スタイルや、よく聞かれる質問の傾向、求められるスキルレベルなど、具体的な情報を基に準備を進めることができます。
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転職市場で評価される経験の作り方

転職市場での評価を高めるには、現在の業務に加えて、以下のような付加価値の高い経験が必要です。

技術ブログの運営は、専門性のアピールに効果的です。実務で得た知見や、技術的な課題の解決方法を発信することで、技術力の証明になります。記事の執筆を通じて、技術的な文章力も向上します。

OSSへの貢献も、技術力を証明する有効な手段です。GitHubでのコミット履歴や、プルリクエストの内容は、実践的なコーディング能力の証明となります。また、英語でのコミュニケーション能力もアピールできます。

個人開発プロジェクトの実績も重要です。実際のサービス開発や、ツールの作成を通じて、設計からリリースまでの一連の流れを経験できます。これらの成果物は、ポートフォリオとして転職活動で活用できます。

技術コミュニティでの活動も評価のポイントとなります。勉強会での登壇や、コミュニティの運営参加を通じて、技術的な交流の幅を広げることができます。これらの活動は、コミュニケーション能力の証明にもなります。

市場価値を高める資格取得も効果的です。特に、AWS認定資格やOSCP、情報処理安全確保支援士などの実践的な資格は、技術力の証明として評価されます。ただし、資格取得は目的ではなく、実務で活かせる知識の習得が重要です。

転職活動では、これらの経験を適切にアピールすることが重要です。職務経歴書には、具体的な成果や数値を盛り込み、面接では実践的なスキルと課題解決能力をアピールします。

まとめ

SES企業での「使い捨て」問題は、多重下請け構造や評価制度、企業体質など、複数の要因が絡み合って生じています。しかし、この環境を一時的な通過点として活用し、次のステップに進むことは十分に可能です。

自社開発企業への転職やフリーランスとしての独立、上流工程を担当できる技術者への成長など、複数のキャリアパスが存在します。重要なのは、現状を正確に理解した上で、計画的な準備を進めることです。

スキルアップと実績作りを並行して進め、転職エージェントを効果的に活用することで、理想的なキャリアチェンジを実現できます。一歩ずつでも、着実に行動を起こすことから始めてみましょう。