IT業界で働くエンジニアとして、将来のキャリアに不安を感じていませんか?特に、SES企業での常駐案件や下請け企業での業務に従事している方は、低賃金や単純作業の繰り返し、スキルアップの機会の少なさに悩まされているかもしれません。

この記事では、いわゆる「ITドカタ」の特徴や実態を詳しく解説するとともに、この状況から抜け出すための具体的な方法を紹介します。

ITドカタとは?

ITドカタとは、IT業界における請負構造の末端に位置付けられる技術者を指す言葉です。正式な呼称ではありませんが、業界内では広く認知された表現として使用されています。主にSES契約での派遣や、多重請負構造の下請けとして働くエンジニアを指します。
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ITドカタが生まれる理由とは?

IT業界における重層的な請負構造が、ITドカタを生み出す根本的な要因です。大手企業から発注されたプロジェクトは、複数の企業を経由して末端の技術者に届きます。この過程で、各企業が利益を確保するため、実際の技術者に支払われる報酬は当初の予算から大きく減少します。

また、プロジェクトの納期や品質に対する要求は厳しくなる一方で、技術者の育成やスキルアップにかける時間的・金銭的な余裕は失われています。結果として、限られた環境で単純作業を繰り返すことを余儀なくされる状況が生まれます。

特に新規参入企業や、資本力の乏しい中小企業では、優秀な人材の確保や教育投資が困難な状況に置かれています。そのため、即戦力として働ける技術者を低コストで確保することを優先し、結果的にITドカタと呼ばれる労働環境が形成されています。

建設業界の土方との共通点

ITドカタという呼称には、建設現場での土方との類似性が込められています。両者には以下のような共通点が存在します。

一つ目は、労働集約型の作業環境です。建設現場での土方が肉体労働を担うように、ITドカタも単純なコーディングや保守作業を大量にこなすことを求められます。作業の質よりも量が重視され、納期に追われる日々を送ることになります。

二つ目は、重層的な下請け構造です。建設業界同様、IT業界でも元請けから下請け、孫請けと仕事が流れる構造が確立しています。この構造により、実作業者の取り分は少なくなり、低賃金での労働を強いられる状況が生まれます。

三つ目は、技術の固定化です。土方が特定の作業に特化するように、ITドカタも特定の言語やシステムのみを扱う環境に置かれがちです。新しい技術に触れる機会が限られ、市場価値の向上が難しい状況に陥ります。

このような環境下では、長時間労働が常態化しやすく、休日出勤や深夜残業も珍しくありません。また、案件単位での契約となるため、雇用の安定性も低い状況にあります。

ITドカタの仕事内容はどんなもの?

プログラム

IT業界における実務の現場で、ITドカタと呼ばれる技術者が担当する業務は、システム開発の下流工程に集中しています。これらの業務は、上流での設計や決定事項に基づいて実施される作業が中心となります。

作業の単純化と専門性の関係はどうなの?

IT業界では、作業の効率化という名目で業務の細分化が進んでいます。その結果、一人の技術者が担当する範囲は限定的になり、同じような作業を繰り返し行う状況が生まれています。

この業務の単純化により、特定の作業に関する習熟度は上がりますが、システム全体を理解する機会は失われています。また、新しい技術に触れる機会も限られるため、市場で求められる幅広い技術力の習得が困難な状況に置かれています。

特に請負構造の末端では、作業時間の厳密な管理により、自己学習や技術研鑽の時間を確保することが難しい環境にあります。結果として、特定の作業に特化した技術者として固定化される傾向があります。

主な担当業務は?

ITドカタが担当する主な業務は、システム開発の実装フェーズ以降に集中しています。具体的な作業内容として以下が挙げられます。

基本設計書や詳細設計書に基づいたプログラミング作業では、既存コードの修正や機能追加が中心となります。また、テスト仕様書に従った動作確認作業や、不具合の修正作業も重要な業務の一つです。

データ入力や変換作業などの定型業務も多く、ExcelマクロやAccessを使用したデータ処理作業が日常的に発生します。これらの作業は正確性が求められますが、創造性を発揮する機会は限られています。

設計書通りのコーディング作業

コーディング作業においては、詳細設計書に記載された仕様に厳密に従うことが求められます。仕様変更や改善提案の機会は少なく、決められた通りにコードを実装することが主な役割となります。

プログラミング言語やフレームワークは、既存システムで使用されているものに限定されることが多く、最新技術に触れる機会は限られています。また、コードレビューや設計レビューへの参加機会も少ないため、技術力向上の機会が制限されています。

システム監視や保守

運用フェーズでは、システムの稼働状況監視や定期メンテナンス作業が主な業務となります。具体的には以下のような作業を担当します。

システムの稼働監視では、定められた手順に従って各種ログの確認や性能指標のチェックを行います。障害発生時には、一次対応として定型的な復旧手順を実施します。

定期メンテナンス作業では、バッチ処理の実行確認やデータバックアップの取得、ログファイルの退避作業などを担当します。これらの作業も手順書に従って実施することが基本となります。

セキュリティパッチの適用やミドルウェアのバージョンアップなども、決められたスケジュールに従って実施します。ただし、これらの作業も既存の手順に従って実施することが求められ、改善提案や最適化の検討機会は限られています。

なぜITドカタは年収が低いのか?

IT業界の末端で働く技術者の収入が低水準にとどまる背景には、構造的な問題が存在します。上流から下流まで複数の企業が介在する多重請負構造により、実際の技術者に届く報酬は大きく目減りしています。

多重請負による単価の仕組み

IT業界における多重請負構造では、元請けから下請け企業へと仕事が流れる過程で、各層でマージンが発生します。例えば、エンドクライアントが支払う100万円/月の案件単価は、以下のように配分されます。

元請け企業は顧客から受け取った100万円から30万円程度のマージンを取得し、70万円を一次下請けに支払います。一次下請けは更に20万円程度のマージンを確保し、50万円を二次下請けへ支払います。最終的に技術者の手取りは35万円程度まで減少することも珍しくありません。

この構造により、技術者の月額報酬は25万円から35万円程度に固定される傾向にあります。結果として、年収は300万円から450万円程度にとどまることが一般的です。

年齢による昇給の限界はある?

ITドカタの収入は、年齢や経験年数に関係なく、一定水準で頭打ちとなる特徴があります。これは以下の要因によるものです。

35歳を過ぎると、若手技術者と比較して人件費が割高とみなされ、案件の獲得が困難になります。また、特定の技術や作業に特化した経験しかない場合、市場価値は更に低下します。

40歳以上のITドカタの場合、月額報酬が35万円を超えることは極めて稀です。この年齢での平均的な年収は350万円から400万円程度で、昇給の見込みは限定的です。

低単価案件しか任されない理由とは?

ITドカタが低単価案件に固定される背景には、以下の要因が存在します。

上流工程や高単価案件では、幅広い技術知識やプロジェクトマネジメント能力が要求されます。しかし、下流工程での単純作業が中心のITドカタは、これらのスキルを習得する機会に恵まれません。

また、企業側も利益確保のため、低コストで確実に作業をこなせる技術者を重宝します。その結果、技術者の市場価値は低く評価され、低単価案件のみが割り当てられる状況が継続します。

更に、一度低単価案件に従事すると、その経験が前歴となり、次の案件でも同様の単価帯での案件しか紹介されなくなります。この負のスパイラルにより、収入の向上が困難な状況が固定化されています。

企業側の評価基準も、作業の正確性や納期遵守が中心となり、技術力向上や創造性は重視されません。結果として、技術者としての市場価値は低く据え置かれ、収入の向上機会は限られています。

ITドカタの見分け方は?5つのチェックポイント

IT業界で働く技術者が自身の置かれている状況を正確に把握することは、キャリア形成において極めて重要です。以下のチェックポイントを確認することで、現在の環境が将来の成長につながるかを判断できます。

案件の特徴と注意すべき点

案件の内容は、技術者としての成長機会に直結します。以下の特徴が見られる案件は要注意です。

プロジェクトの下流工程のみを担当し、上流工程への参加機会が全くない状況が続いています。また、仕様書に基づく単純作業が中心で、技術的な判断や提案を行う機会がありません。

保守運用案件においては、決められた手順書通りの作業のみを繰り返し、システム改善や最適化の検討機会が与えられていません。

会社の体制やサポート状況

技術者の育成に対する会社の姿勢は、キャリア形成に大きな影響を与えます。以下の点に該当する環境は危険信号です。

社内研修や勉強会が一切開催されておらず、技術力向上のための支援制度が存在しません。資格取得支援や技術書籍の購入補助などの制度も整備されていません。

また、先輩エンジニアからの技術指導や、メンター制度などの育成体制が確立されていない状況も問題です。

技術スタックと最新技術への対応

技術環境は、市場価値を左右する重要な要素です。以下の状況は、技術者としての成長を妨げる要因となります。

使用している技術が古く、市場で主流となっている技術に触れる機会がありません。新しい開発手法やツールの導入に消極的で、従来の方法に固執する傾向が強い環境です。

また、特定の言語やフレームワークのみを使用し続け、技術の幅を広げる機会が制限されています。

労働条件と待遇面のチェック

労働環境は、技術力向上の時間確保に直結します。以下の状況は、技術者としての成長を阻害します。

残業が常態化し、自己学習の時間が確保できない状況が続いています。休日出勤が頻繁に発生し、ワークライフバランスが崩れている状態です。

給与面では、年齢や経験年数に関係なく、一定水準で固定されています。また、昇給の基準が不明確で、技術力向上が待遇改善に反映されない仕組みとなっています。

キャリアパスの有無

将来の成長機会は、技術者としての市場価値を決定付けます。以下の状況は、キャリアの行き詰まりを示す警告サインです。

役職や職責の変更がなく、同じ立場で同じ作業を続けている状態が長期間続いています。また、上流工程や新規プロジェクトへの参画機会が与えられず、スキルの幅を広げる機会がありません。

技術的な判断や意思決定に参加する機会が無く、指示された作業を実施するだけの役割に固定されています。将来のキャリアパスが明確に示されておらず、成長の道筋が見えない状況も危険信号です。

ITドカタから抜け出すにはどうすればいい?

IT業界でのキャリアアップを実現するには、具体的な行動計画と段階的なステップが必要です。現状を打開するための実践的な方法を、それぞれの選択肢ごとに解説します。

自社開発企業への転職

自社開発企業は、技術者としての成長機会が豊富に存在する環境です。転職を成功させるために、以下の準備が必要です。

自社開発企業が求める技術スタックの習得が必須となります。具体的には、GitやGitHubの実践的な使用経験、CI/CDパイプラインの理解、アジャイル開発の知識が重要です。

転職活動では、ポートフォリオの作成が重要な武器となります。個人開発したアプリケーションやGitHub上での活動実績は、技術力をアピールする有効な材料となります。

上流工程へのステップアップする

上流工程への移行は、技術者としての市場価値を高める効果的な手段です。以下の点に注力することで、ステップアップが可能です。

基本設計や詳細設計のドキュメント作成スキルを磨くことが重要です。現在の案件で作成される設計書を深く理解し、設計の意図や背景を把握する習慣をつけます。

また、プロジェクトマネジメントの基礎知識も必要です。PMBOKなどの体系的な知識を習得し、小規模な範囲から実践的なマネジメント経験を積み重ねます。

Sierに転職する

Sierは、幅広い案件と技術に触れる機会が存在します。以下の準備により、転職の実現性が高まります。

技術の幅を広げることが重要です。現在の専門分野に加え、関連する技術領域の知識を習得します。特に、クラウドサービスやインフラ技術の基礎知識は必須です。

資格取得も有効な手段です。基本情報技術者や応用情報技術者などの資格は、技術力の証明として評価されます。また、ベンダー資格の取得も有利に働きます。

フリーランスとして独立する

独立は、収入と自由度の向上を実現する選択肢です。ただし、以下の準備が不可欠です。

専門性の確立が重要です。特定の技術領域で高い専門性を持つことで、単価の向上と案件の安定確保が可能となります。最低でも3年以上の実務経験と、市場価値の高い技術スタックの習得が必要です。

案件獲得のためのネットワーク作りも必須です。SNSやtech系イベントへの参加を通じて、人脈を広げることが重要です。また、フリーランス向けのエージェントとの関係構築も有効です。

独立前には、半年分以上の生活費を貯蓄することが推奨されます。また、確定申告や保険など、事業者として必要な知識の習得も必要です。

まとめ

ITドカタの状況に陥る背景には、多重請負構造による低賃金、作業の単純化による技術力の停滞、キャリアパスの不透明さなど、複数の要因が絡み合っています。しかし、自社開発企業への転職や、上流工程へのステップアップ、SIerへの転職、フリーランス独立など、状況を改善するための選択肢は確かに存在します。重要なのは、現状を正確に把握し、自身の目標に合わせた適切な対策を選択することです。技術力の向上と市場価値の確立に向けて、具体的な一歩を踏み出してみましょう。